しぐれめも

何か作る過程をメモとして残したり、あと雑記

【読書感想】物を作って生きるには

朝晩の通勤電車はドア付近で腕を組んで突っ立っている事しかできないくらい混雑しているのが普通だったのですが、4月頃から座れたり壁にもたれたりできるくらいすいているようになり読書が捗ったので、読んだ本を気まぐれに紹介します。

www.oreilly.co.jp

 この本は2015年に発売され、工作愛好家の界隈でちょっと話題になっていたのですが、当時は海外に居住していたので帰国したら買おうかなと思ってすっかり忘却、今になってやっと読んだのでした。とは言え、結局電子書籍で買ったので別に海外でも買って読めたのでは・・・。余談ですがオライリー電子書籍はPDFファイルなので、端末を選ばずに読めて非常に良いですね。

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前置きが長くなりましたが、本書はタイトルに反して「生き方を教えてくれるhow to 本」ではなく、ものを作って生計を立てている人達の半生を振り返るエッセイ&インタビュー集です。登場するのは主にアメリカおよび日本国内で活動されている方々ですが、ニッチな製品を製造販売している人、工作スペースでものを作っている人、小ロットの加工サービスを提供する人、自給自足生活者、アーティスト等々色々な人がいます。

個人的にぶっちぎりで面白いと思ったのは出張プラネタリウムでおなじみヒゲキタさんの一代記ですが、これは私がヒゲキタさんを存じているからでしょう。なぜ活動を始めたのか、どのようなバックグラウンドからあの3D影絵を生み出したのか。そんな裏話が読めて面白くないはずがなかった。ちなみにヒゲキタ氏のブログでロングバージョンが読めます。

higekita.wixsite.com

次いで乙幡啓子さんの工作裏話が面白い。原価率とか、小ロットを生産する難しさとか、ちょっとした失敗談とか、そういった普段なかなか聞けない話は一読の価値ありです。

逆に(主に米国Makerの方の)何を作ってる人なのか、作品/製品がちょろっと紹介されただけの人は、その人の活動・苦労談を読んだところで「結局アレは何だったの?」という感じでやや消化不良です。オリガミチェア、Kimono Lantern等々、この本を読んだだけではどういうものかわからない。重要ではないから端折られたのだろうけど、Makerを紹介するなら作ったものも紹介して欲しい。Makerのアイデンティティはその人が作ったものによって形成されるって言うじゃないですか?とりあえず、全体的に知らん人ばっかりなのでもうちょっと自己紹介して欲しい。あ、ゴーントレット教授の「なぜ私たちはものを作るのか」の考察は面白かったです。要約すると「楽しい」「仲間とつながれる(コミュニティーの形成)」「承認欲求を満たす」の3つが、人が物を作る理由の共通点だそうです。個人的には納得です。

 

ふと思ったのは、この本に登場するのは運良くある程度成功した人達で、その背後には無数の屍が転がっているのではないかということです。ものを作って生きたかったけどダメだった人達の、なぜダメだったのかという話の方が学びが多いかもしれないですね。成功者の話だけを聞いていると、会社勤めはクソだ!脱出しよう!という誘惑に駆られてしまいそうです。5月末頃から満員電車が復活し、腕を組んで突っ立ったままドナドナされている今日この頃、否が応でも脱出欲求が高まります。しかしそこはいばらの道...